1998年04月22日

四百字随想その31

1.町内会、自治会
(一九九八.四.一)=社会=
私は現在、マンションというか団地に住んでいる。町に町内会は確かにあるのだが、積極的に参加しようと思ってもきっかけがつかめない。団地だけで約五百世帯、優秀な自治会を持っている。一度総会に出てみたが、出席者は三十人ぐらいであった。役員でない私は少々奇異に見られた。そこで区政モニターに応募していろんな話を聞いてみたところ、町内会組織は網の目のように存在し、民生委員などの委嘱が行われている。ところが一般住民にとってそういう組織がほとんど機能して居らず、その存在を意識しなくても生活できる態勢にある。住民という言葉や国民という言葉が簡単に使われるが、現実の生活の中では、どういうものなのかはっきりしない。今、私はウォーキングという活動を通じて地域に密着した活動を展開しているが、本当の意味の相互扶助になっていない。プライバシーという概念がどうも希薄な人間関係を作っているような気がする。

2.シルバーシート
(一九九八.四.八)=社会=
いつの間にかシルバーシートの資格者になってしまったが、どういう訳か座りにくい。資格者でないときは簡単に立ち上がることが出来たが、今だと立ち上がるためには自分があなたより健康でしっかりしているんだと言い聞かせなくてはその方に失礼ではないかといらぬ心配をしてしまう。そうなるとシルバーシートに座りにくい。一般席に座って席を譲ることには抵抗がない。もっともシルバーシートの前に立っていて席を譲られたことはないので、未だ外見上資格者と見られていないという思い上がりもある。どうも私にとってシルバーシートは鬼門である。はっきり言うと全ての座席がシルバーシートだと考えれば自ずから解決する問題で、体の弱い方、お年寄りの方、赤ん坊連れの方、そういう方に自然に席を譲ることが出来ればいいはずである。一番嫌な現象はシルバーシートの前で俺は資格者だぞという顔をして立っている人を傍らから見ることである。

3.近ごろの新人
(一九九八.四.一五)=社会=
近ごろの新人、本当によく働く。私は職業柄ベンチャービジネスといわれる分野の仕事をしている若い人たちに接する機会が多いが、彼らはよく働く。一見ちゃらんぽらんな風采をしていたり、時間のけじめがはっきりしていなかったりするが、とにかくよくやっている。我が家の息子たちや娘もよく働く。時間に対する感覚がないのかと思うほど、朝は定時に出かけて夜は遅くまで働いてくる。超過勤務手当を当てにもせず、終わるまで働く。ちょうど我々が若いころとそんなに変わってはいない。こうしてみると、働くということは日本人の特性かもしれない。礼儀作法がなっていないという人もいるが、そんなこともない。若い人々と同じ立場に立ち、同じ立場からいろんなことを議論する場合、彼らは私の言うことをよく聞く。権威主義を押しつけたり、自分のことを棚に上げたりすると彼らは必ず切れる。よく考えると私自身と何ら変わらず一緒である。

4.パソコン受難
(一九九八.四.二二)=自分=
パソコンとつきあいを始めていつの間にか二十年近くなる。十五年ほど前、職場でパソコンは必ず筆記具代わりになると提案したことがある。そういうパソコンをいち早く自家薬籠中のものにしたのは当時中学生であった長男。おかげでこちらは苦労をせずに何でも息子に作ってもらい、もっぱら利用する側であった。これが今でも尾を引き、自分で何かを作るとなると何にも出来ず、何とかの一つ覚えのような使い方をしている。それでも文章を書くことも計算も通信もパソコンに頼り、毎日パソコンの前に座らないと落ち着かない状況である。ことにインターネットでの情報確認、囲碁対局など私にとっては明らかに生活の一部になってきている。この便利さ、重宝さ、そして敏速さがもしかすると粘りとか勤勉とか重厚さなどを失っているのかもしれない。しかし、私はパソコンによって受難しているとは思えず、二十世紀最大の発明を享受していると言える。
(平成一〇.四.二二東京新聞夕刊掲載)

Posted by taichiro at 1998年04月22日 09:22