2000年02月23日

四百字随想その18

1.人生はドラマだ (1997.3.12)=自分=
昭和4年、若干20歳でサンデー毎日の懸賞募集で大衆文芸乙種に入選、華々しく文壇にデビューした男がいた。
彼は作者の言葉で「今にして認知された私の前途は洋々として広く遠い気がする。読者よ期待してほしい」と述べているが、世に出た作品はこれ一作であった。
一方、一緒に入選した作家に海音寺潮五郎さんがいる。海音寺さんはその後、時代小説の大御所になった。
一作で終わった彼は、その後、大陸に雄飛した。小説は書けなかったが、敗戦の日まで息つく暇もないぐらいあらゆることに手を出し、あらゆることを実践したが、敗戦は全てを失わせた。
戦後50年あまり、生き残った子供は4人、孫が8人、それに曽孫が3人。失意の日々の中で、昨年クリスマスの日に、米寿で息を引き取った。
彼の長男が私である。
人生は彼が作った小説よりもドラマチックであった。
しかし、たった一作であったこの小説「山脇京」を私は香典返しに使った。

2.消費税独り歩き (1997.3.19)=経済=
タイトルに反するが、消費税は一人では歩かない。必ず決める人がいる。税制という中で、国会が決める。
問題は直接税だが、法人税のように利益があれば税金は納めるが、利益がないとどんな大きな会社であっても1銭の税金も払わなくて済む。現実的に言ってもすでに法人税の税収は減ってきている。
その代替手段みたいなものが消費税と言える。消費という実体にしたがって税金がかかることを世の中では逆進性というような言葉で表わされるが、実際には逆進することはない。単に比例的に負担するだけであってそれぞれの消費の額にしたがって負担する。
問題は所得のばらつきが現実にあるため、消費したくても使えない人がいることである。税制による所得の平準化という考え方にそろそろ限界がきているのではなかろうか。
所得のばらつきを政治によって制限できるようになると、消費税ほど確かな税制はない。政治にそれだけの力があるかどうかである。

3.便乗値上げ (1997.3.26)=社会=
 (平成9.3.26東京新聞夕刊掲載)
消費税の税率アップに便乗して値上げという意味だが、私はむしろ、このアップを利用した便乗値下げの実体を問題にしたい。
つまり、外注先や仕入先に対して、消費税のアップ分を認めない価額の強制である。そうするとほぼ2%の値下げを強要したことになる。
その値下げ分は、課税仕入税額として確実に戻ってくる。しかもその利益は、消費者に戻ってこない。
消費税は実は業者にとっては転嫁される租税で終局的には純然たる消費者が負担するものである。したがって税率のアップは業者には直結しない税制のはずであるが、正しく転嫁する現象が起こらないと一種の便乗値下げが行なわれ、その値下げが消費者に還元されないということになる。
便乗値上げはもっともらしい理屈をつけても目に見えるから対策も立てやすいが、本当の意味で問題なのは便乗値下げである。この値下げが弱い業者に集中することが問題であり、目に見えないので始末が悪い。

4.私の最大関心事 (1997.4.2)=社会=
エリートの皆様、評論家の皆様、それにオピニオンリーダーを自称なさる皆様。ペルーの人質の身代わりになる気はございませんか。
3か月を超えた人質の方々。今、日本は最大の危機を迎えています。もし、私でもよければ、すぐに身代わりになりたい気持でいっぱいです。
こういうときこそ、理屈でなくエリートの方々は先頭に立つべきではないでしょうか。少なくとも交渉する価値はあるはずです。こういうときこそ、苦しんでいる人の代わりになる。これが本当のエリートです。と同時にオピニオンリーダーだと思います。
相手側にとって、より重要な方が身代わりに立つ。こういう人が今の日本にはいないのでしょうか。そしてこれが危機管理だと信じています。
理不尽に対抗する手段をあらかじめ考える必要はありません。理不尽が起こったとき、どう対処していくか。起こってから考えるべきです。そして命を懸けること。
今ならまだ出来ます。

Posted by taichiro at 2000年02月23日 14:40